客船という言葉には、「豪華」という枕詞がつく傾向があります。世界には3百隻以上の客船が存在しますがいったいどんな客船が「豪華」でしょうか。今回はさまざまな観点から見てみたいと思います。
夢の船、と言われたクイーンエリザベス2
1989年3月27日、私は横浜港大さん橋ふ頭で客船の入港を待っていました。その頃まだベイブリッジはありませんでした。
入港予定のおよそ45分前に遠方から小さな船影が見え出し、だんだん近づいて来ます。
白、赤、濃紺の船全体をはっきり確認できるようになった時、足がガクガクと震え出しました。
こんなに大きな船だったとは。バイリンガルスタッフとして採用されたのですが、ちゃんと働けるかしら。そんな不安もあり武者震いだったのですね。
その船は世界で最も有名な客船とよばれたクイーンエリザベス2(QE2)でした。65863トン、乗客定員1890人。
これが11回目の横浜寄港だったそうです。私は本船から客船の仕事を始めました。
QE2は横浜開港130周年の記念行事のひとつでホテルシップとなり約2か月間、横浜大さん橋ふ頭に停泊。この時新聞やテレビで盛んに使われたのが「豪華客船」という言葉でした。
またホテルシップの広告コピーには「夢の船」あこがれの客船という意味で使われ話題になったのです。クルーズ未経験だった私には本船が「豪華」なのかどうか、当時はわかるよしもありません。
しかし振り返りますと現代の客船に比べて違うな、という点を記憶しています。ホテルシップ後にはクルーズもあり洋上のサービスを見ました。
たとえば紅茶はティーバッグではなく本格的なリーフティーを使用。
客室係を呼ぶコールボタンには緑と赤の2種類がありました。赤を押せば女性スチュワーデスが来てフォーマルドレスのファスナー上げを手伝ってくれるというわけです。
世界3大珍味といわれるキャビア、フォアグラ、トリュフもメニューに登場したり、船長主催のウエルカムパーティはご招待状が全員に配られていました。
本船が2008年に引退した時は世界中のファンが惜しんだものです。
ラグジュアリー≒豪華客船?
客船は大きく3つのカテゴリーに分類されます。
カジュアル、プレミアム、ラグジュアリーという具合です。飛行機でいえばエコノミー、プレミアムエコノミー、ビジネスクラスに当たるでしょうか。
客船を総合的に評価するには、以下のような項目に分けて査定されるようです。
- 概要(ハード面、安全性、メンテナンスなど)
- 客室(レイアウト、清掃、備品、サービスなど)
- 飲食関係(レストラン、ブッフェ、バーなど)
- サービス全般(レストラン、ルームサービスなど)
- エンターテイメント(催し、ショーなど)
- クルーズ全般(パーティなどのイベントなど)
専門家がチェックして採点し、高得点ならば当然ラグジュアリーの部類に入り「豪華客船」と呼ばれるようになるでしょうか。
確かに高得点の客船は、ラグジュアリー船に分類されるでしょう。しかし、それがイコール「豪華客船」とは限らないのでは?と、私は思い始めています。
これは個人的な見解ですが、誰にとってもお気に入りの「豪華客船」があったり、特別な機会に出かける「豪華なクルーズ」があるのではないでしょうか。
たとえば、初めてのカリブ海クルーズを内側客室でお母様&娘さんで行ったとします。南国の寄港地、美食の数々、行届いた清掃で居心地の良い客室、豪華なショー。おそらく高評価で「豪華客船クルーズをしました!」となるのでは?
またいつもカジュアル船に乗る鈴木さんご夫婦が「オールインクルーシブ」船にデビューしたら「飲み放題って豪華な気分だね。」と感激するはずです。退職記念にも又こんなクルーズをしよう、と思われるかもしれません。
南極クルーズなら、どの客船でも豪華客船になりえる可能性があります。最後の秘境といわれる南極では体験がすべてですから、クルーズの満足度が高いからです。景色やレクチャー、パルカのお土産も南極ならでは。
あなたにとっての「豪華客船クルーズ」があると思いますが、最後に世界的に高い評価を受けている客船をご紹介しましょう。
世界最高峰の別名があるオイローパ2号
写真はどちらもオイローパ2号(42830トン、乗客516人)です。ドイツ客船ですが英語とドイツ語が公用語で乗客もクルーも国際的。
写真のスイート客室はベランダを含め35平方の広さがあります。ドアが開いてもベッドが見えないレイアウトで、バスタブはジャグジーの泡風呂付き。船内は広々していて、他船にはない人工透析室もあります。
小型船ながらレストランは7つあり美食メニューが評判です。受注後に肉を挽くタルタルステーキやお寿司なども追加料金はありません。
驚かれるのはアルコール飲料が有料であること。船内で必要なものが全て含まれるオールインクルーシブ制を採用するラグジュアリー船が多いのですが。
しかし昨今は節酒・禁酒される方が増えていますので公平に料金を設定しているといえるでしょう。
美人クルー3人娘の写真も添えました。全クルーはホテル業務3年以上の経験者のみで、おもてなし度は日本の老舗ホテル級です。
食後に薬を出したらサッと来て「白湯がいいですか、お水ですか。」と聞いてくれます。
誕生日の朝、ルームサービスでコーヒーを頼んだら「ハッピーバースデー!」と言ってドアを開けてくれました。
ワインを飲んでも伝票のために名前や客室番号を決して聞きません。乗客の顔と名前を覚えるよう、訓練されているのです。
客室マネージャーと会って驚きました。ドイツ人の彼女は初代飛鳥の客室マネージャーだった人です。「本船の就航は、飛鳥の10倍も大変だったのよ」との事。
彼らクルーのおかげで、オイローパ2号は2013年の就航以来、ずっとファイブスター・プラスの評価を受けているのですね。次の日本寄港が楽しみです。