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TRAVEL NOTES
クルーズ旅行記

帆船と海のロマン

2022.02.23
クルーズエッセイ

大海原に白い帆をあげて進んでいくクルーズ船。いちど乗ってみたいと思っていらっしゃる方は意外と多いようです。

ふつうの客船とどんな違いがあるのでしょうか。今回は帆船クルーズの魅力を一緒に探ってみたいと思います。

帆船VS一般の客船

最も大きな違いは、海と風をより身近に感じられることでしょう。通常の客船でバルコニー付き客室に入れば海が見えますし潮風にもあたれるでしょう。

ところが帆船になりますと、海がもっともっと近くに見え、広い屋外のデッキに出ると360度の方向から海風が私たちを迎えてくれるのです。

以下に、帆船ならではの特徴を挙げてみました。

1帆船らしいデッキでのイベントが多い

ロマンがある、というのは伝統的でクラシックな部分があるからでしょうか。木製の壁やチーク材のデッキはその一部ですが、さらに重要なのは帆船らしいイベントだと思います。

マスト登り

フォトテンダーから本船を撮影
写真・文

マストの支柱まで登ったり、クルー達が帆を上げ下げする作業を見学するなど、通常の客船ではできないことばかり。また本格的なロープ結びを覚えるのもお楽しみのひとつです。また船長自らがデッキで「帆船よもやま話」をするクルーズもあります。

2船尾から海へ出て水上スポーツが楽しめる

今どきの帆船には、船尾に張り出したマリーナとよばれるプラットホームがあります。ここから水上スキーやシー・カヤック、スノーケリング、ダイビングを体験することも可能。多くはクルーズ料金に含まれますが、追加料金の場合も。マリーナ無しの帆船ではゾーディアック(エンジン付き強化ゴムボート)を利用して、沿岸を探検するミニクルーズがよく開催されます。

Star Clipper
乗客の有志をデッキで見守る
写真・文

写真撮影のために提供されるフォトテンダーも帆船らしい計らいでしょう。白鳥のように全帆を揚げた優美な姿は、乗船していては見ることができません。よって好天日に、希望者を交代でテンダーボート(又はゾーディアック)に乗せてくれ私たちの願いをかなえてくれるのです。

3セーリングという帆走体験ができる

帆船といえども、風まかせで海をゆく大航海時代の船とは異なります。入港や出港の時間を守る必要があるため、エンジンを装備し定時運航を目指しているわけです。しかし大海原へ出たら、帆走に切り替えます。

クルーが次々と帆を揚げていき、本船が絵葉書のような姿のように変わっていきます。これをデッキで見学するのが醍醐味というもの。帆が風を受けると、船はいったいどう反応するでしょうか。あなたの体はどう感じるでしょう?

帆走という体験こそが、船や海のロマンそのものかもしれません。左右に体が小さく揺れたり、波が船体を打つポチャポチャという音が客室内から聞ける場合もあるのです。揺れるといってもスピードは出ませんし、温暖な海域がほとんどなので、船酔いする人は少ないでしょう。

こんな帆船があります

代表的な3隻について書いてみました。

1シークラウド(2532トン、乗客定員64人)

1931年就航で今年船歴91年になる世界最古の帆船。クルーは60人でほぼ乗客と同数なのは機械を使わず伝統的な手作業で帆を扱うためです。最終日に全客室を公開して見せるオープンハウスパーティは、本船の有名なイベントのひとつです。

2ロイヤル・クリッパー(5061トン、乗客定員228人)

5本マストに揚る全42枚の美しい帆はカリブ海や地中海クルーズでも注目の的です。ギネスブックに登録された世界最大のクルーズ帆船。アンティーク風の船内調度品をはじめ、食事やサービスが人気でリピーター50%以上を誇っています。

3ウインド・サーフ(1万4745トン、乗客定員312人)

ディーゼル電気推進であるほか、コンピューター制御による展帆でクルーズ可能なハイテク帆船です。
エレベーター2機やカジノのテーブル席も。カジュアルな雰囲気で楽しめる帆船で、クラブメッドⅡは同型船になります。

船上の一日

帆船の客室はコンパクトであることが多く、船内の階段も急な場合があります。しかしバルコニー付き客室やエレベーター完備のモダンな帆船も最近は増えてきました。

レストラン
ディナーの用意がされています
写真・文

朝食とランチは通常レストランのブッフェ式です。ディナーはウエイターによるテーブル・サービスが多く、通常の客船と同じようなコース料理が楽しめるでしょう。

航海日はゆっくり起きてデッキへあがり、朝のコーヒーを楽しむ人が多いですね。帆船には「夏」の海域が似合います。南太平洋やカリブ海など青い海と空を味わいましょう。朝はデッキのカウンターでクロワッサンやチーズなど軽食も用意されています。

船内新聞はありますが実際は不要かもしれません。なぜなら船が小さいので何がどこで起こっているか、すぐ分かってしまうからです。イベントに参加する人が半分ぐらい、あとはデッキチェアで読書したり他の乗客と会話を楽しんでいる人が多いでしょうか。

日没を船上から眺めること。ディナー後にデッキで星空を見上げること。これらは帆船クルーズで必須の項目です。海原という自然のなかに自分をおくことは、究極の癒しになりますから。よって帆船にショーなどのエンターテイメントは不要なのです。クルーズというより「航海」と呼びたくなるほど、貴重な体験になることでしょう。

執筆者 | 吉田あやこ
クイーン・エリザベス2と初代飛鳥元クルー、現職はクルーズアンバサダー。
クルーズバケーション社のコーディネーターを経て現職。英国在住30年。
クルーズガイド取材アシスタントなどを含め、世界の客船約100隻に35年の乗船経験あり。
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