クルーズもテレビ番組に取り上げられるようになりました。
一昔前まではクルーズがテレビに取り上げられると言えば飛鳥のワールドクルーズで一番上のスィートルームのお値段が、お一人様1500万円!即完売!という様なまだまだクルーズは高嶺の花、という事がニュースに取り上げられるぐらいでした。取り上げられるならまだ良い方で外国客船はほとんど取り上げてもらえることはありませんでした。
しかし2008年にBS朝日が「世界の船旅」という紀行番組を立ち上げ、実際に撮影隊が世界中の船に乗り込んでクルーズの魅力を一般の人に広めてくれるきっかけとなりました。
番組を見て、高嶺の花と思っていたクルーズが意外と手の届くところにあるという事に気が付かれた方も多かったと思います。
次々と作られたBSチャンネルのクルーズ紀行番組
「世界の船旅」の視聴率が良かった事もあり、クルーズ紀行番組はその後どんどんと増え、俳優の高橋克典さんがナレーションを務める「極上のクルーズ紀行」や「世界豪華客船紀行」「クルーズ・ザ・ワールド」「クルーズ×クルーズ」「洋上の楽園クルーズ」など様々な番組が作られました。
既に終了もしくは休止中の番組もあり残念ですが、昨今は旅行会社がスポンサーとして付くなど番組と実際のツアーがより近い関係となってきた様に思います。
番組は乗船前のガイドブック
クルーズ中お客様とのお話の中で、乗船から下船まで、乗客がどの様に楽しんでいるかを映像で紹介してくれるのでクルーズ前に見るととっても参考になるというご意見を良く伺いました。番組では船内だけでなく寄港地での人気オプショナルツアーなども紹介してくれるのでツアー選びの参考にもなりました。
訪れる地域も代表的なカリブ、アラスカ、地中海などのクルーズだけでなく南極や北極圏までも網羅し、定員数100名以下の小型船やフェリーから最新鋭の大型客船、6星クラスの船等ありとあらゆるクラスの船を紹介、バラエティーに富んだ内容でクルーズファンだけでなく旅好きには必見の番組といえましょう。
撮影隊の裏の苦労
コーディネーターとして乗船中、テレビ番組や雑誌などの撮影隊が乗船する際には撮影のスムーズな進行をサポートするべくお手伝いさせていただきました。わずか数十分の番組でも撮影時間は何十時間いやそれ以上という単位です。
番組ではとてもきれいな朝日や海に沈む夕日が流れることがよくありますが、あの美しい景色を撮るために撮影隊の方々はほぼ毎朝、日の出時間前からデッキに出てスタンバイしています。
船が港に入れば一番で下船し、船から降りてくる乗客の方を撮影します。食事のカットを撮る際も厨房に依頼し数多くの料理を用意してもらいます。テーブルのリネン類にきちんとアイロンが当てられているか、船の振動が撮影に影響しないかなど、細かいところまでに気を払うご苦労とハードワークを毎回目にしました。
BSのクルーズ紀行番組撮影のパイオニア的存在で多くの紀行番組のディレクターを務めてこられた新井浩氏とは複数の船でご一緒しましたが日本人の中でも誰よりも多くの船に乗っている一人ではないかと思います。船内で撮影する姿を見かけたことがある方もいらっしゃるのではと思います。
新井さんと撮影に同行していた時、クルーズも終盤でしたが、カリブ海のボネールのヨットハーバーを歩き船に戻る時でした。カメラマンが足を滑らせ海に落下、それを助けようと新井さんも一緒に海に入ってしまいました。
カメラマンはウニのとげに刺されて傷だらけになってしまいましたが、大変だったのは撮影カメラまで海に落ちてしまい撮影不可能となってしまいました。その為、最後のスケジュールに入っていた船側のオフィサーたちとの撮影時には予備で持参されていた家庭用ハンディーカメラで撮影する事になってしまいました。
カメラマンは無念だったと思いますが、その時にオフィサーが日本のカメラ技術はやはりすごいんですね、アメリカの撮影隊はそのカメラの10倍ぐらいある大きなカメラを持ってきて船内で撮影しているんですよ。このサイズなら船内でもお客様の妨げにもならないし、さすがハイテクですね!とおっしゃってくだいました。
一瞬事情を説明するのを止め、印象良く撮影を終わろうかと考えてしまいました。
厨房内の撮影
長らく調理中の厨房内の撮影はご法度でした。衛生的な問題に加え戦場のように超慌ただしい厨房に撮影隊が入る事を料理長が良しとしなかったためです。
ある時ニューヨークから撮影隊と共にクィーンンメリー2に乗船しましたが、その際たまたま乗っていた当時キュナード社のグローバルクリナリーアンバサダーを務めていたジャンマリー ジーママン氏が調理中の迫力あるシーンを撮りたいという撮影隊の強い希望に答えてくださいました。
今まで撮影は常にきれいに磨きあげた厨房を見せることが多かったのですが夕食の準備に大忙しの厨房に招き入れてくださり撮影を許可してくれました。躍動感ある調理シーンは期待以上の物でした。
撮影ディレクターの交渉力はこういった所にも発揮されていますね。その後、この時の事がきっかけとなったのか調理場のシーンは多くの船で撮影する事ができるようになったようです。
話が逸れますがこのジャンマリージーママン氏は数多くの受賞歴をもつフランスのシェフです。2010年に就航したクィーン・エリザベスに往年のクィーン・メリー、クィーン・エリザベスにあった上級クラス専用のレストラン、ベランダ・グリル名前を受け継ぎ、内装を再現しスペシャリティーレストラン、ザ・ベランダをオープンさせました。
オープンから約8年間はフレンチのレストランでしたが日本人のお客様にも大人気で多くの方にご利用いただきました。このレストランのメニューを開発した方がジャンマリー ジーママン氏です。就航当時は自ら厨房に立ち腕を振るっていました。
その頃にクィーン・エリザベスのザ・ベランダで食事をした方はほんの数十ドルでミシュランシェフの作りだす食事を堪能できたという事になりますね。ラッキーでした。ジャンマリー ジーママン氏とザ・ベランダに関してはまた別の機会にもう少し深く書きたいと考えています。
ザ・ベランダ
クルーズはやはりお客様ファーストとする船がほとんどです。乗客が寛いでいるところを撮影する際には細心の注意が必要です。
船によっては乗客をフィルムに映しこむことは一切禁止、お客様に許可をいただき撮影できるとしても、その際は毎回お客様に撮影許可に際する同意書に署名をしてもらわなければならない船もあり、デッキでのんびりと寛いでいるお客様にびっしりと細かい文字で書かれている書類に署名してもらうというのも随分と気を遣ったものです。