船内で船会社や船の歴史を知る
クルーズは旅なのでつい寄港地での観光、船内生活も食事や服装などに気がいってしまうのはもちろんです。
ただ、客船も船会社によって内装にいろんな趣向を凝らしているので、航海日などは船内のインテリアやアートをめぐる時間を設けてみてはいかがでしょうか。
例えば、定期航路として大西洋横断を行っていた歴史のある船会社は、大西洋横断の黄金時代のなごりを感じる“当時のもの”を船内に飾っていることがあります。
英国船社のキュナード・ラインは先代の鐘やオーシャンライナー時代の絵画などを飾っていたり、英国王室にゆかりがあるので、エリザベス女王の肖像画など王室に関連したものを、船内探検をしながら、探してみてもいいですね。
ホーランド・アメリカ・ラインも6万トン級の「ザーンダム」や「フォーレンダム」は“船上の博物館”と呼ばれるほど、歴史を物語る数多くのアンティークや華やかな調度品が飾られ、同社の長い歴史に思いを馳せることができます。
船社ではありませんが、ハワイ4島めぐりで人気の「プライド オブ ハワイ」には「SSアメリカ・ライブラリー」という図書室があります。多くの蔵書とともに、大西洋横断で活躍した華やかな「SSアメリカ」(1940年就航)の資料や写真などが多く飾られて、実に見応えがあります。
オーシャンライナーの時代や船会社の歴史、背景などを知るには、このような船でさまざまな展示を見るのも、船旅の楽しみの一つかもしれません。
ラグジュアリー客船で名画を見る
ラグジュリー客船には著名な画家の絵画が船内にさりげなく飾られていることもあります。たとえば、シルバーシークルーズの「シルバー・シャドー」や「シルバー・ウィスパー」には、陸の美術館でしか見られないようなシャガールの絵画やダリの彫刻など、著名作家の作品をさりげなく飾っています。私は乗船するたびに、「美術館併設の船でクルーズができる幸せ」と思ってきました。
同社は2017年に就航した「シルバー・ミューズ」では現代アートを採用。現代アートに囲まれた「アート・カフェ」を設置したり、船内もオブジェや絵画が飾られていて、こちらも見応えがあります。気に入ったアート作品を買うことも可能です。
リバークルーズのユニ・ワールドのリバー客船も美術館でしか見ることができないような著名画家の絵画が船内に展示されています。オーナー夫人のコレクションとのことですが、セキュリティ上、どの船にどの画家の作品というのは、伏せています。ただ、乗船して、見覚えのある画風の作品のサインを見ると本物……ということがあるかもしれません。
モダン・アートに溢れる新造船
スタイリッシュな内装が特徴と言われる、セレブリティクルーズ。13万トン級の新シリーズの内装には、多くの若手アーティストの作品があちこちに展示されています。
船内の内装自体がおしゃれでつい見逃してしまいそうですが、現代アートの最先端をゆくアーティストたちの作品が各所に飾られており、一つひとつ見てあるくだけで1日はゆうにかかりそうな勢いです。
フランス船社のポナンも船内アートにかなりのこだわりを持っています。同社の内装は建築家兼デザイナーとして有名なフランスのジャン・フィリップ・ヌエルが全船を担当。さらに船内のアートは専門のアート・コンサルタントが入り、世界中のアーティストや工房から選んだ、よりすぐりのアートやオブジェをセレクトして配置しています。
(新造船のお披露目の時に、いきなり「あなたは日本人? このオブジェは広島にある工房からのものなのよ」と説明されたことがあり、驚いた経験があります)。
一つひとつ掘り下げていくと、1隻の船の中でも、今注目の、さまざまなアートに触れることができるのです。
☆客船まるごと1隻がイタリアデザイン!
若い年齢層や家族連れにも人気のコスタ・クルーズですが、同社最大級であり、フラッグシップの「コスタ・スメラルダ」と2022年に就航した姉妹船の「コスタ・トスカーナ」は、温故知心というか、船内の内装、家具から椅子、カーペットなどすべてをイタリア人のデザイナーが手掛けています。
主張がないような絨毯であっても、周囲の椅子やテーブル、照明と絶妙に組み合わされていて、一つひとつがデザインされ、匠にまとめられていることに気が付きます。
もちろん、革新的にデザインされているところもたくさん。たとえば、イタリアの赤いリキュール、カンパリを使った「カンパリ・バー」や老舗のカフェの豆を使ったカフェ、船上で手作りされるジェラートが食べられるジェラテリアや、目の前でピザを焼いてくれるピッツェリアなど、イタリアの名物を使った美味しいものは、本場で食べているような錯覚に陥るような内装と美味しさです。
そして、この客船の見どころは船上初のイタリアデザインの博物館「CODE(Costa Design Collection)」です。車、家具、ファッション、生活用品など、それぞれが年代別に並べられていて、デザイン大国イタリアを俯瞰することができます。
現在でも日本で見かける日常雑貨や、おしゃれなインテリアショップで売られているブランドの家具がいつ頃、イタリアで発売されたかがよく分かるのです。
我が家はカルテルという透明な椅子や時計、小物入れを使っていますが、1945年にイタリアで創設されたイタリアのデザイン会社で、その代表的な家具なども順番に展示されていました(定番の椅子などは、船内で乗客が座れるように色んな場所に置いてあります)。
展示だけでなく、デザイン大国と言われるイタリアでどのようなデザイナーがどのような思いでデザインをしていたかの、「デザイン哲学」なども紹介されています。
建築や車、ファッション、デザイン好きなら「CODE」を含む、船内を見て歩くだけでも、イタリアデザインに魅了されることでしょう。
主役でなくとも船内生活が豊かに
クルーズはもちろん寄港地を含めた船旅を楽しむために乗船しますが、テーブルセッティング、クルーの制服、照明やファブリックに至るまで、個性豊かな内装など、意外なところにも楽しむ要素がたくさんあります。クルーズと共に、ぜひ各客船会社が力を入れている部分を見つけて、船旅をさらに充実させてみてください。