港町「長崎」
外国船社が運航するクルーズ船の寄港回数で、常にベスト3に入る「長崎」。ポルトガルとの貿易港として開港し、その後もオランダや清(中国)との貿易を行い発展していきました。
戦前も日本郵船が上海との定期航路を運航するなど、国際定期航路の寄港地として、異国情緒を漂わせたハイカラな街として賑わいました。
三菱重工業長崎造船所
江戸時代からから造船の街として栄えた長崎ですが、戦前には浅間丸、ぶらじる丸をはじめ多くの客船(貨客船)も造られました。戦後、再び三菱重工業長崎造船所で客船が造られるようになり、日本のクルーズブームの火付け役にもなりました。
1990年クリスタル・ハーモニー(現在の飛鳥Ⅱ)の建造。翌年には初代飛鳥が産声をあげました。そして2004年にはプリンセス・クルーズ社のダイヤモンド・プリンセスとサファイア・プリンセスが造られ長崎の街から巣立っていきました。
長崎で産声をあげたダイヤモンド・プリンセス
ダイヤモンド・プリンセスの命名式は2004年2月26日 晴天の空の下、当時の三菱造船所所長夫人による命名の元、世界中からの招待客に囲まれ盛大に執り行われました。当時、プリンセス・クルーズ社の日本の販売総代理店であった㈱クルーズバケーションに勤めていた私も命名式に出席させていただきました。
その中で、プリンセス・クルーズの親会社、カーニバルコーポレーションのミッキー アリソンン会長がスピーチをされました。氏はダイヤモンド・プリンセス建造中に何度か長崎を訪れ視察を行いましたが、完成間近な頃に訪れた際の驚きを語ってくれました。
船内に入る全ての作業員たちが靴を脱ぎ絨毯が汚れたり、傷んだりしないようにと非常に神経を使って作業してくれている光景を見て心から感動し、今まで多くの建造中の船を見てきたがこんなにも船の事を思ってくれる造船所を、そしてそこで働く人々を見たことがなく、とても感銘を受けたと話されました。
また、当時の造船所副所長の苦労話もお聞きする事が出来ました。船内には無数のケーブルが迷路のように張り巡らされており、その長さは全てを合わせると1500キロを超え、その作業だけでも気の遠くなるような作業だったそうです。
完成後のダイヤモンド・プリンセスの操舵室を訪問した際、キャプテンが電気系統の配線は素晴らしく緻密で他では絶対に見る事のできない美しさだ!とおっしゃっていました。確かに何種類ものケーブルが美しく揃えられ、弛ませることなく、どこも絡ませることなく船内中にきっちりと留めつけられ張り巡らされていました。それを見た時は同じ日本人として誇らしい気持ちになりました。
ダイヤモンド・プリンセスは就航してすぐに太平洋を渡り、ロサンゼルス発着のメキシカンリビエラクルーズに就航しました。日本で建造された船に乗ってみようと多くの日本の方にご乗船いただきましたが、長崎県からのお客様が多く、その年の都道府県別参加者数第2位になりました。造船所で働いていた方にも随分とお乗りいただき、船内で当時の苦労話しもお聞きできました。
また建造チームのスタッフとして半年以上長崎に滞在していた乗務員も少なくなく、長崎の名物や、温泉スポット、絶景ビューポイントなどを教えてもらうこともありました。誰もが長崎の人の心の優しさは今でも忘れられないと話してくれた事がとても印象的に記憶に残っています。
生まれ故郷に帰ってきたダイヤモンド・プリンセス
プリンセス・クルーズは2013年から日本発着クルーズを開始、2014年にはダイヤモンド・プリンセスが配船され、長崎への里帰り寄港も年に複数回行われました。多くの乗客に自分の生まれ故郷を見てもらう事が出来、長崎の人達にも自分の活躍している姿を見てもらう事ができて彼女もきっと誇らしかったのではないでしょうか。
一日では廻りきれない長崎の街
歴史の街「長崎」には世界遺産もありその歴史、文化はとても多彩で、見るべきものが満載です。鎖国時代の出島や、隠れキリシタンとの関わりもある大浦天主堂、グラバー邸などエキゾチックなエリアもあれば、中華街のようなにぎやかな場所もあります。
閉山から50年近く経ち島全体の風化が問題となっている軍艦島。そして原爆資料館と平和記念公園。一日では廻り切れないかもしれません。観光スポットの多い寄港地は事前に行動予定をしっかりと立てる事が一日を有意義に過ごす大事なポイントになると思います。クルーズで訪れ、心に残った土地を別の機会にじっくり訪れるというのも良いと思います。
船に戻れば
長崎での一日を過ごし、船に戻ってホッとしましょう。でも忘れないでほしいのが長崎の出港風景です。
出港時、岸壁では市民の方がお見送りに手を振ってくれています。時には地元の学生さんたちの吹奏楽に見送られ、夕景のなか、港を離れる光景は何故か涙がでてきます。出港後は造船所を眺め進みますがすぐに女神大橋の下をくぐります。全長1、289メートル。大型船の通過にも対応できるような高さに橋げたが設置されているためかなり高いところを車や人が行き来します。
通過の際に見上げれば、橋の上から大きく手を振り私たちをお見送りしてくれている人の姿を見る事ができます。夕日の中、大海原に進むダイヤモンド・プリンセスの姿はきっと颯爽としていたと思います。