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TRAVEL NOTES
クルーズ旅行記
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進化する寄港地ツアー

2023.07.05
クルーズエッセイ

最近、海外で外国客船に乗船すると、いろんな寄港地ツアーが用意されていて、とても迷うようになってきました。

乗客定員が少ない小型客船だと、もともと「シェフと市場に買い出しに行くツアー」(寄港地ツアーというより、「一緒に行きたい方はどうぞ。シェフの顔で色々味見ができますよ」)というほっこりしたものもありました。

小型客船だと時々、体験できる「シェフと市場に行くツアー」。知らない国の食材もシェフやお店の人が説明してくれたり、試食ができることも 撮影:藤原暢子

しかし、今では大型客船でも1箇所の寄港地に10種類以上の寄港地ツアーがあって、悩んでしまうのです。

コロナの副産物?! 少人数のツアー

以前は寄港地に近い有名な観光地をいくつかめぐる「ハイライト・ツアー」的なものに、50人乗りの観光バスが何台も連なって出発することが多くあったように思います。

私も初めて行く寄港地で下調べができてないときは、「とりあえずハイライト・ツアーに参加しておこう」と思っていました。

ところがコロナ禍で観光地に住む住民の立場になったり、何かあったときのことを想定すると、「多くの乗客を同時に一カ所の観光地に連れていくのは難しい」というのが一つの理由だったかもしれません(博物館や美術館の人数制限などもあました)。

色んな種類の寄港地ツアーを準備して、人数を少なめにすることでリスクを少しでも低くしようという船側の試みが好評だったのかもしれません。

パンデミックが終わり、クルーズが再開された頃は寄港地ツアーも新しい場所を訪ねるものが増えていたり、参加人数も20人前後だった 撮影:藤原暢子

乗客の興味や趣向に合わせたラインナップ

乗客も情報収集が上手になったり、旅行やクルーズの経験値があがり、「歴史的な建物も良いけれど、その土地ならではの体験がしたい」と思う方が増えてきたのも、さまざまな寄港地ツアーが増えた理由の一つでしょう。

昨年、オーシャニア・クルーズでバルト海&北欧クルーズに参加しました。事前に寄港地ツアーの一覧を見ると、健脚度別以外にも、「WT」、「CD」、「FW」、「GL」(Go Local)、「GG」(Go Green)などのマークが付いています。「WT」はウェルネス(厳選された場所で心と体を豊かにするもの)、「CD」はカリナリー・ディスカバリー(食への発見)、「FW」はフード&ワイン(ご当地ならではの食とワインをエキスパートと体験)というマークでした。

「GL」(Go Local)は地元のコミュニティーを深く訪ねるツアーで、私はハンブルグで参加してみましたが、欧州各地にリンゴを輸出している、ハンブルグ郊外にある無農薬のリンゴ農園でリンゴの栽培から加工までの様子を見せてもらいました。普通ならば行かない農園エリアですが、小川があってかわいい郊外の家がとても印象的でした。

美しい市街地のあるドイツのハンブルグで、「郊外の、無農薬のりんご園を訪ねるツアー」。自力ではなかなか行けない場所&体験で興味深かった 撮影:藤原暢子

帰りがけは、ハンブルグ名物のフランツブロートヒェンというシナモンロールに似た パンの老舗に寄って、パン屋さんの一角で地元っ子と一緒に食べるという経験ができました。

ハンブルグの有名な老舗パン屋さんで地元の人たちに混じって、ご当地パンを食べられるというレアな体験も 撮影:藤原暢子

「GG」(GO GREEN)は地域社会などが周囲の環境を保護、維持、向上させるために努力している豊かな街を訪ねます。私はリトアニアのタリンで参加しましたが、案内役は地元に住む青年。港からそう遠くないので、あえて徒歩と電車で、使われなくなっていた建物や広場を住民たちで作り上げてきた新スポットに行きました。バングラデッシュでジーンズを作る時に出てしまう端布を使って、おしゃれな服をデザインして販売しているブティックを訪ねたり、改装した古いビルに現代美術館や、近くのエリアで採れた野菜や魚介のみを使った開放感たくさんのレストランで食事を取ることができました。

あえて地元の公共交通機関に乗って、地元の人が集まるエリアを訪ねる 撮影:藤原暢子

一番の観光地はすぐ近くの旧市街地ですが、こちらの新しいエリアは普通の人が住んでいたり、子どもを遊ばせる場所がたくさんあり、さまざまなアートなども発信している場所でした。これはオーシャニア・クルーズのツアーに参加しなければ、なかなか知ることができなかった地域の取り組みを知ることもできなかったと思います。

Gパンを作る時に出る端布をつなぎ合わせたり、再生して作った布でオリジナルデザインの服を売っているタリンのお店で説明を聞く 撮影:藤原暢子

その他にも出港が遅い寄港地では、ディナーを食べた後に出かけられる夜のツアー(夜景鑑賞ミニクルーズなど)や、催行人数16人までの少人数ツアーなど、色んな趣向を凝らしたもの、特別なツアーなどが設定されていて、自分の興味に沿うものに参加することができました。

食に特化した寄港地ツアーならシルバーシー

様々な客船会社がユニークな寄港地ツアーを作っていますが、“食”に特化したプログラムを先駆けて作ったのは、シルバーシー・クルーズです。
「S.A.L.T」(Sea And Land Taste)と呼ばれるこのプログラムは2020年に就航した「シルバー・ムーン」「シルバー・ドーン」から開始。寄港地の食文化を通じて、その土地を深く体験することができます。

なかなかお目にかかることができないフィリピンのお祝いの時の料理 撮影:藤原暢子

考案したのは、米国の有名料理雑誌の元編集長で多くの賞を受賞しているアダム・サッチ氏。寄港地では地元の食材を売る市場や食堂をスペシャリストとめぐったり、村を訪ねて人々が作る伝統料理を作ってもらうこともあります(乗客が現地の料理教室で作ることも)。また、船上ではそのエリアの食文化のスペシャリストを呼んで講演や実演、料理教室を行うこともあります。航海中も「S.A.L.Tキッチン」や「S.A.L.Tバー」では、クルーズエリアの食やお酒を楽しむことができます。

マレーシアでは地元の料理学校で乗客自ら、マレーシア料理に挑戦する企画 撮影:藤原暢子

私も「S.A.L.Tプログラム」のトライアルクルーズに参加したことがあります。そんなに食通でもなく、料理も上手ではありませんが、食と生活、伝統、文化は密接に結びついているので、新たな発見が多く、その深さに驚きました。

見たことがないような食材が並ぶ市場も専門家が料理法や使い方を説明してくれる 撮影:藤原暢子

リージェント・セブンシーズ・クルーズやオーシャニア・クルーズなども船上にキッチンスタジオがあり、寄港地の料理を学ぶことができます。

寄港地ツアーの細分化はメリットが多い!

人気の国や都市はパンデミック前からオーバーツーズムが危惧され始めていました。もちろん経済的には潤いますが、そこに住む人やその土地へのマイナス要因も負担もあります。

そこで色々な趣向を凝らした寄港地ツアーを多く設定して、乗客の興味があることを深く知ってもらったり、体験してもらう少人数のツアーが今後のトレンドになっていきそうです(環境に優しい自転車やハイキング、ウォーキングツアーも増えています)。

観光バスだけでなく、自転車やウォーキングでめぐる寄港地ツアーも増えている 撮影:藤原暢子

スマートフォンなどの地図やGPS(情報や翻訳機能も)を駆使して、地元の交通機関などを使って個人で寄港地をめぐるという選択をする人も増えていきそうです。

寄港は時間が限られていますが、一カ所、一カ所が忘れられない思い出や本物の体験ができるようになっていくといいですね。

執筆者 | 藤原暢子
長崎生まれで、父は元船医、姪は客船元乗組員という海のDNAを持つ一家。1998年に英国の客船で横浜から英国まで世界半周をし、改めて船旅の魅力に開眼。フリーの編集者からクルーズ取材、撮影、執筆の仕事を徐々に増やす。2004〜2010年、2017〜2019年と約10年間、(株)海事プレス社の客船情報誌『CRUISE』の編集長を務めつつ、さまざまな媒体で国内外のクルーズを紹介(現在は同誌プロデューサー、クルーズ・ジャーナリスト)。25年間で約120隻の客船で80カ国をめぐる。仕事以外の休暇もついクルーズへ。宝物は今まで船上や寄港地で出会った人々。
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