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TRAVEL NOTES
クルーズ旅行記
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安全で快適に南極クルーズ

2023.12.06
クルーズエッセイ

観光客の急増でオーバーツーリズムが世界中で問題化しています。観光地の住民や環境を守るため入場料や人数制限などの対策も始まりました。昨今話題になっている探検クルーズはどうでしょうか。

南極という特殊な環境を考えますと、何度も行けるような場所ではありません。一生に一度のチャンスとなることが多いはず。だからこそ、客船とコースをよく吟味して決めたいものです。その一例として今回はハパグロイド・クルーズをご紹介しましょう。

20年前のクリスマス&新年クルーズ

キングペンギンの営巣地 撮影:吉田あやこ

南極や北極圏などの極地へいく探険船クルーズは多くの方々にとって夢の航海ではないかと思います。

写真のようなペンギンをすぐ目の前で見られるのも南極ならでは。素晴らしい思い出をつくるにはまず第一に、安全で快適なクルーズが必須といえます。

客船が極地向けに建造された耐氷船アイスクラスであるというハード面はもちろんのこと、操舵室士官や上陸をサポートする係の探検エクスペディションチームのクルーも豊富な経験が求められるでしょう。

ほとんどの上陸はゾディアックという強化ゴムで作られたエンジン付のボートを使うことになります。

本船の船尾にあるマリーナデッキからひとりひとり慎重に乗り移りドライバーの指示に従って野生動物やブルーに輝く氷河を見学するのです。こんな時に事故があっては困りますね。慣れたクルーだったら安心してゾディアック・ツアーも楽しめます。

仕事がら、私は数社の異なる探検船で南極へ行くことが出来ました。各船にはそれぞれの特徴や長所があり、船内の雰囲気は異なるものです。その中で最も記憶に残っているのは南極で過ごした年末年始でした。当旅行記のNo12「南極に行ってみたい」にも記しましたのでご参照下さい。

「ブレーメン」(約7千トン、乗客184人)は1990年に三菱重工の神戸造船所で建造され、当時では最新の設備を備えた探検船でした。元フロンティアスピリットだったのです。1993年ドイツのハンアティックツアーズとハパグロイドツアーの両社が運航を担当。

ドイツ船らしい本場クリスマスの雰囲気いっぱいでツリーやジンジャーブレッドハウス(お菓子の家)などが南極でも楽しめました。

ハイテクで環境に配慮した新造船3隻が就航

寝室にも大型の窓あり 撮影:吉田あやこ

1995年頃ハパグロイドクルーズはブレーメンのほかハンセアティック(約8千トン)という5つ星を獲得した探検船も所有していました。現在世界最高峰とよばれているオイローパ2(約4万トン)を運航している船社ですが、南極という遠隔地でも同様に上等なサービスを提供していたのです。

当社は南極クルーズの3つある老舗船社のひとつ。

他2社は現リンドブラッド・エクスペディションズの元船社と、探検船をチャーター(貸切)する会社クォーク・エクスペディションズでした。その中でハパグロイド・クルーズだけが南極以外のクルーズを運航していたのです。1891年の創業ですからクルーズ船社として130年余の歴史があります。

当社は昨今の極地クルーズの人気を先取りし従来の探検船すべてを新造船に差し替えると発表。客室とロッカー室の両写真は新しいハンセアティック・ネイチャー(1万6千トン、乗客230人)です。

2019年処女航海前にざっと船内を見学させて頂きました。写真のようにベッドルームの窓は特大で、「クジラが見えます!」と船内放送があったら外に出なくても見えます。また双眼鏡も装備されていました。上陸観光に役立つノルディック・ポールも2組ずつ、全室に標準装備です。

2隻目のハンセアティック・インスピレーションも同じ作りでドイツ語および英語対応なので日本人にも乗りやすい事でしょう。2021年には3隻目のハンセアティック・スピリットが就航し、姉妹船がすべて出揃いました。

5つ星を獲得した探検船

上陸前後に使うロッカー室 撮影:吉田あやこ

一隻目のハンセアティック・ネイチャーはその後2020年のベルリッツ社のクルーズガイドで見事5つ星を獲得。探検船では唯一のファイブスターになります。どんなところが良いのでしょうか。以下の3つは私の私見です。

極地でもグルメが楽しめる

食材やシェフを当社に調達しているのは高い評価を受けているオイローパ2と同じハンブルグの会社。そのオーナーは元客船勤務をしていたシェフです。20年前に乗った3週間の南極クルーズもメニューに飽きることはなく、魚や野菜も客船らしいグルメが楽しめました。食材の保存法、調理法、盛り付けが工夫されているのです。

使い勝手のよいロッカー室

昨今の探検船にはテンダーボート乗り場の近くにロッカー室が備えられています。パルカという防水防寒ジャケットを置いたり、長靴を置く場所ですね。

写真は本船のもの。たっぷりなスペース、客室ごとの棚も大きめです。

船社によっては狭くて棚も小さく、棚にドアと鍵が付いていました。南極ですから上陸時に貴重品を持参する人はいません。鍵は不要ですし、シンプルに物を置ければいいのです。

パルカも船社によってさまざま

長靴は船で借りるのですがパルカは通常お土産で頂けます。そのデザインや素材、仕様はさまざま。縫製が甘く内側の糸がほつれてくるもの、ジッパーが小さくて上げ下げが容易ではないもの、ポケットの中に雪や雨が入るもの、防水のフードを結ぶ紐がうまく結べないなど。これらは船社の探検クルーズ歴やノウハウを明確に示しているといえるでしょう。

ハパグロイドクルーズでは2種類のレイヤー式を採用していました。下は薄手のダウンジャケットでその上に完全防水のジャケットを重ねて着用します。薄いダウンは船内でも着られますし帰国後も利用可。また会社や船名のロゴは目立たない所に。アウターのフード下にひっそりと記されていました。下船後も街着として使えますね。こんなところに質実剛健なドイツ人気質と経験値の高さが感じられます。

執筆者 | 吉田あやこ
クイーン・エリザベス2と初代飛鳥元クルー、現職はクルーズアンバサダー。
クルーズバケーション社のコーディネーターを経て現職。英国在住30年。
クルーズガイド取材アシスタントなどを含め、世界の客船約100隻に35年の乗船経験あり。
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